年功賃金が諸悪の根源であるかのような言説がありますが、「年功賃金の合理性」は労働経済学のどの教科書でも言及していることです。
賃金に年功性があることは、日本に限ったことではなく、先進国にほぼ共通しています(図1)。
ただし年功賃金は「年功序列」と同義ではありません。
年功賃金とは年齢とは、他の条件が同じであれば、経験年数が長い人ほど給料が高くなるような給与体系です。
給料は経験年数だけで決まるわけではなく、評価も影響しますから、経験年数と給料の逆転は大いにありえます。
年功序列はアメリカの経営学者であるジェームズ・アベグレンが1958年の著書『日本の経営』で提唱した言葉で、経験年数で一元的に給料が決まることです。。
もっとも当時ですら、どの企業のどの社員にも年功序列があったわけではなく、大企業の大卒男子にしかなかったと言われています。
年功賃金の合理性についてはさまざまな説があります。
最も代表的なものとして「インセンティブ説」があります。
図2は働く人の貢献度と賃金を表したものです。
経験が浅い時期は見習いであり、ほとんど貢献はありません。
その後貢献度は急速に上がりますが、次第に伸びが鈍化してゆきます。
図2で、5年目までは賃金が貢献度を上回っています。
戦力にならなくても賃金を払うので、会社としては不採算です。
6年目から30年目までの期間では、見習い期間の教育訓練への投資を回収して、さらにお釣りが出るほど働かせます。
しかし「お釣り」を返さないまま定年を迎えさせるのでは、働く人は希望が持てないので辞めてしまいます。
そこで31年目以降は貢献度以上の賃金を支払うことによって「お釣り」を返します。
インセンティブ説は「賃金後払い説」ともいわれますが、これがその所以です。
働く人は定年まで勤めてやっと、貢献度と賃金が釣り合います。
このように定年まで勤めるインセンティブを持たせることによって、企業は安心して、見習い期間に教育訓練をすることができます。
もしも最初から最後まで貢献度と釣り合う賃金を支払っていたら、働く人はいつ辞めても損をしないので、ひとつの会社に長く勤めるインセンティブを失ってしまいます。
第二は「人的資本説」です。
人的資本とは物的資本(機械や工場など)や金融資本(資本金)と並ぶ資本(お金を生み出すもとになるもの)であり、仕事に使う知識や技能、人間関係などのことです。
企業は働く人を雇ったら、単に働かせるだけでなく教育訓練もします。
それによって働く人の人的資本が大きくなります。
このため経験とともに賃金が上がってゆくのだという説です。
第三は「適職探し説」です。
企業の中で人事異動を繰り返すうちに、より適性がある仕事についていく。それにつれて賃金が上がるという説です。
第四は「生計費説」です。
人は年齢とともに必要な生計費が増えます。
このため年齢とともに上がる賃金が労働者から好まれ、それに合わせて企業が支払っているという説です。
最後に第五として「習慣形成説」があります。
人は生活水準が下がることには耐えられないから、年々上がって行く賃金が好まれるという説です。
仮に5年間の期限付きで、総額2500万円が支払われる労働契約があったとします。
(A)1年目300万円、2年目400万円、3年目500万円、・・・という年功型賃金、
(B)最初から最後まで500万円というフラット型賃金、
(C)1年目700万円、2年目600万円、3年目500万円というように毎年下がって行く逆年功型賃金
なら、(A)の年功型賃金が一番、働く人から好まれているというアンケート調査の結果があります(大竹文雄『くらしと社会に関するアンケート』2002年2月)。
ただしあまり極端に上がり、そのぶん初期の賃金が極端に低い賃金よりも、緩やかに上がって行く年功型の方が好まれています。
「年功徹底排除」などと言うのは誤りです。
