筆者が講師を務めたセミナーで、「結果だけでなくプロセスも評価すべきだという意見に賛成か、反対か」というテーマで、ご参加者のにディスカッションをしていただきました。
「賛成」という意見が多く、その理由としては「プロセスも評価しなければ、正しいプロセスや知識を探求する意欲が低下する」ということや、「正しいプロセスを実践しても、感染症の流行や災害などによって、結果に結びつかないリスクがある」などの意見が出されました。
この問題には正解がないことをお断りしたうえで、筆者は締めくくりに次のような見解を申し上げました。
- 報われない努力をほめてはいけない
結論を先に述べますと、プロセスを評価すべきだという意見には懐疑的です。
理由は第一に、モチベーションの基本として、結果が出ない人をほめてはいけないからです。
目標の心理学の嚆矢であるハイディ・グラントは、結果が良くないときに落ち込むのは必要なことであり、落ち込むからこそ人は行動を起すと言っています(『やってのける』)。
さらに、人は報われない努力をほめられると、かえって自分の愚かさ意識するようになるとも言っています。
たしかに、失敗して落ち込んでいるときに下手に慰めると、真っ赤になって怒る人はよくいますが、喜ぶ人はまれです。
喜んでいるようでは、その人の将来はあまり明るくないようにも感じます。
- そもそも、何が正しいプロセスなのかがわからない
第二に、ビジネスでは、そもそも何が正しいプロセスなのかが分かりません。
「道にお金は落ちていない」という言葉があります。
この世に「これをやれば確実に儲かる」ということはないという意味です。
経済学ではこの考え方が常識です。
よく、株価のテクニカル分析(過去の値動きを分析して将来の価格を当てようとすること)をしている人にこの言葉がかけられます。
「経済学者が二人並んで歩いていた。10ドル札が落ちていたので、一方の経済学者が拾おうとした。するともう一方の経済学者が『やめろ。道にお金が落ちているはずがない』と言った」というジョークがあります。
これをやれば必ず成功するというプロセスがあったら、誰も苦労しません。
もしあったら、皆がマネをするので過当競争が起こり、利益はたちまちのうちに消滅してしまいます。
- プロセスは観察にくい
第三に、どうやってプロセスを観察するのかという問題があります。
たとえばダイエットには、毎日の食事を一定量以下に抑え、運動を一定量するという、正しいプロセスがあります。
しかしこれを本当に実行しているかどうかを、他人が観察することは現実的でありません。
ビジネスでは、プロセスを把握することはいっそう困難です。
不動産会社では、毎日100本の営業電話をかけることをノルマにしているところがあるようです。
これもプロセスの一種ですが、かけた件数を把握するだけならまだ可能かもしれませんが、かけた相手が適切であるか、トークの内容が適切であるかということまで確認することは困難です。
- 結果が出ていない人にかけるべき言葉とは
実際のところ、ビジネスの現場で、成果が上がっていない人に対して「あなたはプロセスが良かったのでA評価だ」と言ったり、目覚ましい営業成績を上げた人に「あなたはプロセスが悪かったのでC評価だ」と言ったりすることが可能でしょうか。
そんなことをしたら、成果を上げることよりも、一生懸命やっている姿を見せることを重視する文化が定着してしまうのではないでしょうか。
ハイディ・グラントは、結果が出ていない人への良いフィードバックとは、まだ達成のチャンスがあるのだという信念を抱かせることだと言っています。
あなたはその仕事に向いていないのではなく、こうすれば問題は解決できるのだということを伝えることです。
人は問題を自分でコントロールできると感じると自信が生まれ、楽観的になると述べています。
